ハンマーダルシマーを使って世界一周音楽の旅レクチャーコンサート
2026/09/26
久保田チェンバロ工房で、ハンマーダルシマーと音楽で世界一周の旅と題したワークショップをさせていただきました!
タイトルは、
「サントゥールから世界へ広がった打弦楽器の旅」です。
ハンマーダルシマーって、知っていますか?
ピアノのように鍵盤を押すのではなく、小さな木のハンマーで弦を叩いて音を出す楽器。
実際に目の前で見ると、「なんだかピアノみたいだけど、ピアノじゃない」という不思議な楽器です。
でも、この楽器のことを調べていくと、実はとても長い旅をしてきた楽器だということが見えてきます。
今回のワークショップでは、その「旅」を子どもたちと一緒にたどってみました。
約5000年前から始まる打弦楽器の旅
ハンマーダルシマーの祖先をたどっていくと、中東には、台形などの木製の共鳴箱に弦を張った、現在の打弦楽器につながる楽器が古くから存在していたと考えられています。
その歴史は、資料によっては約5000年前までさかのぼるともいわれています。
そこから人々とともに楽器が移動し、土地から土地へ伝わっていく。
すると、面白いことが起こります。
同じような構造を持つ楽器なのに、土地が変わると名前も、形も、調律も、演奏される音楽も変わっていくのです。
ペルシャのサントゥール
その旅の中で重要な存在となるのが、ペルシャ、現在のイランを代表する楽器のひとつ、サントゥールです。
サントゥールには、私たちが普段ピアノで使っているような「ド・レ・ミ……」という均一な調律とは違う、地域の音楽に合わせたさまざまな調律があります。
今回のワークショップでは、その「ちょっと不思議な音階」を、子どもたちにも実際に聴いてもらいました。
そして、
「この音階で『かえるのうた』を弾いたら、どう聴こえる?」
という実験も。
知っている曲なのに、調律が変わるだけで、なんだか知らない国へ連れていかれたような感じがします。
音楽って面白いですよね。
ヨーロッパへ行くと名前が変わる
打弦楽器はヨーロッパにも広がっていきました。
イタリアではサルテリオ、ドイツではハックブレット、フランスではティンパノンなど、地域によってさまざまな名前で呼ばれるようになります。
宮廷音楽の世界でも使われました。
特にヨーロッパでは、楽器そのものが装飾され、美しい姿に仕上げられたものもあり、音楽を奏でる道具であると同時に、宮廷文化の中で存在感を持つ楽器でもありました。
同じ「弦を叩いて音を出す」という仕組みを持った楽器が、それぞれの土地の文化の中で姿を変えていったわけです。
アイルランド方面へ、そしてハンマーダルシマーへ
さらに旅は西へ。
アイルランドなどの伝統音楽の世界でも、ハンマーダルシマーが使われるようになります。
ジグやリールなど、踊りと結びついた音楽。
ハンマーで弦を叩くと、キラキラとした音が飛び出してきます。
その音は、まさに踊りの音楽にぴったり。
ワークショップでは、アイルランドの音楽として「The Sunny Hills of Beara」を演奏しました。
子どもたちにとっては、知らない国の知らない楽器。
でも、音が鳴った瞬間には、そんなことは関係ありません。
「なんだか楽しい!」
音楽の入口って、案外そんなところにあるのかもしれません。
シルクロードを東へ
一方で、この楽器の旅は西だけではありません。
東へ向かった打弦楽器は、中国にも伝わり、**揚琴(ヤンチン)**へと発展していきました。
そして中国の伝統音楽の中で活躍するようになります。
今回のワークショップでは、中国の代表的な曲のひとつ、**「茉莉花(ジャスミン)」**を演奏しました。
「同じような楽器なのに、中国ではこんな音楽になるんだ!」
そんなことを耳で感じてもらえたらと思ったのです。
そして琉球へ――夜雨琴
そして琉球へ〜夜雨琴〜
さらに興味深いのが、その先です。
中国から伝わった打弦楽器は、琉球にも伝わりました。
琉球王国の宮廷音楽である**御座楽(うざがく)**でも使われたとされるのが、**洋琴(ようきん)、夜雨琴(やうきん)**です。
「夜の雨の琴」。
なんとも美しい名前ですよね。
江戸時代には琉球からの使節によって江戸にも伝えられましたが、現在の日本で一般的な楽器として定着することはありませんでした。
けれど、楽器そのものは大切に残されています。
こうして見ると、ハンマーダルシマーの「家族」は、実は日本にもちゃんと来ていたのです。
海を渡ってアメリカ大陸へ
そして、もう一つの大きな旅があります。
ヨーロッパからアメリカへ。
移民とともに伝わった打弦楽器は、アメリカのフォーク音楽の中でも使われるようになりました。
そしてブルーグラスなど、アメリカの伝統音楽の世界でもハンマーダルシマーが演奏されます。
今回ここで演奏したのが、
「Whiskey Before Breakfast」
です。
同じ楽器が、ペルシャではサントゥールになり、中国では揚琴になり、ヨーロッパではハックブレットやサルテリオになり、アメリカではハンマーダルシマーとして、また違う音楽を奏でている。
考えてみると、とても不思議なことです。
日本でも,実は「犬神家の一族」に!
そして、ここで子どもたちに聴いてもらったのが、
「犬神家の一族」
のテーマ曲「愛のバラード」。
「あの映画の音、知ってる!」
という人もいるかもしれません。
1976年公開の市川崑監督作品『犬神家の一族』。
音楽は大野雄二さんです。
あの印象的な旋律を奏でているのも、ダルシマーです。
異国的で、どこか不思議で、少し影のある音。
映画の世界観に、あの音色がとてもよく似合っています。
そして、もう一曲。
久保田早紀さんの「異邦人」も少し演奏しました。
これも、あの印象的な異国情緒を感じさせるサウンドの中に、ハンマーダルシマーの音色が登場します。
楽器は「旅」をする
今回のワークショップで私が一番伝えたかったのは、
「ハンマーダルシマーという楽器を覚えてね」
ということではありません。
ひとつの楽器が、人から人へ、土地から土地へ渡っていく。
そして、そこに住む人たちが自分たちの音楽に合わせて、調律を変えたり、形を変えたり、名前を変えたりする。
そうやって、楽器はその土地の文化の一部になっていく。
つまり、楽器そのものが世界を旅しているように見えて、実は人間が音楽を持って旅をしているんですよね。
音楽は、国境を越える
ペルシャからヨーロッパへ。
中国へ。
琉球へ。
そしてアメリカへ。
長い長い時間をかけて、人と一緒に旅をしてきた打弦楽器。
今回、子どもたちと一緒に、その旅の途中にあるいくつもの音楽を聴きました。
「かえるのうた」から始まって、サルテリオ、ハックブレット、サントゥール、揚琴、夜雨琴、アイルランド音楽、ブルーグラス、そして「犬神家の一族」や「異邦人」まで。
こうして並べてみると、ずいぶん遠くまで旅をしました。
でも、全部つながっている。
音楽って、面白い。
そして、音楽を通して世界を眺めてみると、歴史の教科書とはちょっと違った世界が見えてくる。
そんなことを感じてもらえたら嬉しいなと思いながら、今回のワークショップを終えました。
久保田チェンバロ工房で、ハンマーダルシマーの音に耳を傾けてくれた皆さん。
一緒に「音楽の世界旅行」をしてくれて、ありがとうございました。
さて、次はどこへ旅をしましょうか。
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